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千葉地方裁判所 昭和39年(ワ)136号 判決

原告 安藤儀三 外一名

被告 学校法人千葉工業大学 外一五名

主文

原告らと被告学校法人千葉工業大学との間において、原告ら両名が被告学校法人千葉工業大学の理事の職務を行ないうるものであることを確認する。

原告らの本件その余の訴は左記棄却部分を除きすべてこれを却下する。

原告らの請求趣旨第三項4のうち理事兼理事長川崎守之助辞任の登記および同項8ないし11の登記の抹消登記手続請求はこれを棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告学校法人千葉工業大学との間においては、原告らについて生じた費用を二分し、その一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、原告らとその他の被告らとの間においては全部原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、

「一、原告らと被告らとの間において、原告らがいずれも被告学校法人千葉工業大学(以下被告学校法人という。)の理事であることを確認する。

二、原告らと被告らとの間において、

1、昭和三四年一一月一六日東京都中央区日本橋通三丁目二番地川崎定徳株式会社内において開催された、被告学校法人の理事会(以下単に理事会という。)の、被告学校法人の寄附行為(以下単に寄附行為という。)第八条第一項第三号により訴外肥後亨を被告学校法人の理事(以下単に理事という。その他の役員についても同じ。)に選任し、寄附行為第五条第四項により右肥後亨を常務理事と定めることを承認する旨の各決議、

2、同年一二月三日被告学校法人内において開催された理事会の、寄附行為第八条第一項第三号により被告豊田耕作を理事に選任する旨の決議、

3、同年一二月七日被告学校法人内において開催された理事会の、寄附行為第八条第一項第三号により被告川島正次郎を理事に選任する旨の決議、

4、同年一二月八日被告学校法人内において開催された理事会の、被告川島正次郎を理事長に互選する旨の決議、

5、同年一二月二七日東京都千代田区永田町東京グランドホテルにおいて開催された理事会の、(一)同年一二月三日付被告豊田耕作理事選任の理事会確認の件と題する決議、(二)同年一二月七日付被告川島正次郎理事選任の理事会確認の件と題する決議、(三)訴外川崎守之助理事長辞任および同年一二月八日付被告川島正次郎理事を理事長に選任の理事会確認の件と題する決議、(四)被告宇佐美敬一郎を理事に選任し、同被告および被告豊田耕作を常務理事と定めることを承認する旨の決議、(五)次期理事長に被告川島正次郎、次期常務理事に被告宇佐美敬一郎、次期理事に原告安藤儀三、訴外古荘四郎彦、同佐藤正典、原告青木運之助、訴外武居文助、被告豊田耕作、訴外長谷川安次郎、被告千谷利三、同北原広男、訴外藤井一郎、被告平田梅治、次期常任監事に被告松本栄一、次期監事に訴外田中聖賢、被告南義弘をそれぞれ選考する旨の決議、(六)評議員会の招集を理事長に申し入れる旨の決議、(七)事件処理費を金二、五〇〇万円以下とし、その支出を認める旨の決議、

6、昭和三五年一月一六日右東京グランドホテルにおいて開催された理事会の、(一)事件処理費金二、五〇〇万円以内の支出を理事長に一任する旨の決議、(二)評議員訴外武居文助、同被告北原広男、同訴外小川為幸を寄附行為第八条第一項第二号の理事に互選する旨の評議員会の決議を了承する旨の決議、(三)理事訴外川崎大次郎の辞任届を受理することを承認する旨の決議、(四)寄附行為第八条第一項第三号により訴外藤井一郎を理事に選任する旨の決議、(五)寄附行為第九条により監事に選任することについて評議員会の同意のあつた被告松本栄一、同南義弘を監事に選任する旨の決議、(六)理事長職務執行代理者常務理事の辞任の申出を承認する旨の決議、(七)寄附行為第八条第一項第三号により被告平田梅治を理事に選任する旨の決議、

7、同日被告学校法人内において開催された評議員会の(一)評議員訴外武居文助、同被告北原広男、同訴外小川為幸を寄附行為第八条第一項第二号により理事に互選する旨の決議、(二)理事長被告川島正次郎に金二、五〇〇万円以内の事件処理費の支出を一任することに同意する旨の決議、(三)寄附行為第九条により被告松本栄一、同南義弘を監事に選任することに同意する旨の決議、

8、昭和三六年六月一三日前記東京グランドホテルにおいて開催された理事会および評議員会の、それぞれ、(一)理事兼理事長川島正次郎、理事訴外古荘四郎彦、理事原告青木運之助、同安藤儀三、理事訴外藤井一郎、同小川為幸、理事被告宇佐美敬一郎、同豊田耕作、同千谷利三、同平田梅治、理事訴外佐藤正典の同年四月二四日の退任を認める旨の決議、(二)監事被告南義弘、同松本栄一、監事訴外田中聖賢の同年六月一二日の辞任を認める旨の決議、(三)寄附行為第八条第一項第三号により被告川島正次郎、同宇佐美敬一郎、同豊田耕作、同千谷利三、同平田梅治、同白鳥義三郎、同南義弘を理事に、寄附行為第八条第一項第一号により被告佐藤正典を理事に、寄附行為第八条第一項第二号により訴外武居文助、被告北原広男、同堀口貞雄を理事に、寄附行為第九条により被告松本栄一、訴外田中聖賢を監事に選任する旨の決議、(四)被告川島正次郎を理事長とし、右以外の理事は代表権を有しない旨の決議、

9、同年七月一〇日右東京グランドホテルにおいて開催された理事会および評議員会における、それぞれ、寄附行為第八条第一項第三号により被告小沢久太郎、同鈴木光勤を理事に、寄附行為第九条により被告原勇記を監事に選任する旨の決議、

10、昭和三九年三月二四日右東京グランドホテルにおいて開催された理事会および評議員会における、それぞれ、寄附行為第八条第一項第二号により被告木村捨象、同関野房夫を理事に選任する旨の決議、

がいずれも無効であることを確認する。

三、被告学校法人は、原告に対し、千葉地方法務局においてなされた被告学校法人の登記のうち、

1、訴外肥後亨が昭和三四年一一月一六日理事に就任した旨の同月一七日付登記、

2、被告豊田耕作が同年一二月三日理事に就任した旨の同月四日付登記、

3、被告川島正次郎が同月七日理事に就任した旨の同日付登記、

4、同月八日、理事兼理事長訴外川崎守之助が辞任し、被告川島正次郎が理事長に就任した旨の同日付登記、

5、被告宇佐美敬一郎が同月二七日理事に就任した旨の昭和三五年一月五日付登記、

6、昭和三五年一月一六日、訴外藤井一郎、同武居文助、被告北原広男、訴外小川為幸が理事に、被告松本栄一、同南義弘が監事に各就任した旨の同月二〇日付登記、

7、被告平田梅治が同年一〇月一七日理事に就任した旨の同月二八日付登記、

8、理事原告青木運之動、同安藤儀三が昭和三六年四月二四日理事を退任し、監事訴外田中聖賢が同年六月一二日監事を辞任した旨の同月二九日付登記、

9、同月一三日被告川島正次郎、同宇佐美敬一郎、同豊田耕作、同千谷利三、同平田梅治、同白鳥義三郎、同南義弘、訴外佐藤正典、同武居文助、被告北原広男、同堀口貞雄が理事に、被告松本栄一、訴外田中聖賢が監事に就任し、理事長たる理事被告川島正次郎以外の理事は代表権を有しない旨の同月二九日付登記、

10、同年七月一〇日、被告小沢久太郎、同鈴木光勤が理事に、被告原勇記が監事に就任した旨の同月二一日付登記、

11、昭和三九年三月二三日、被告木村捨象、同関野房夫が理事に就任した旨の同年四月一四日付登記、

の各抹消登記手続をせよ。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

(請求の趣旨第一項記載の請求-以下第一の請求という-について)

一、請求原因

被告学校法人は私立学校法に基づく学校法人であつて千葉工業大学を設置運営するものであり、その余の被告らは理事または監事としてその職務に従事している者であり、原告らはいずれも昭和三二年四月二四日理事に就任し、寄附行為第一〇条第一項により理事の任期が四年と定められているので、原告らは昭和三六年四月二四日右任期満了により退任すべきところ、原告らの後任理事が適法に選任されておらず、しかも寄附行為第一〇条第三項には、役員はその任期満了の後でも後任者が選任されるまではなおその職務を行なうと定められているので、原告らはいまなお理事の職務を行ないうる者である。すなわち、

被告学校法人においては原告らの右任期満了後である昭和三六年六月一三日請求の趣旨第二項8記載の理事会の決議が、同年七月一〇日同項9記載の理事会の決議がなされ、後任理事が選任されたとしてその旨請求の趣旨第三項9、10各記載の登記がなされている。しかしながら、寄附行為第六条第二項によれば、理事会は理事長が招集すべきものと定められているところ、右後任者選任の理事会はいずれも被告川島正次郎が招集したものであり、同被告は請求の趣旨第二項5記載の理事会の決議により理事および理事長に選任されたとされているけれども、右各決議は請求の趣旨第二項記載の請求(以下第二の請求という。)に関し後述のとおり無効であつて、同被告はいまだ理事および理事長に適法に選任されたものではないから、前記後任者選任の理事会は招集権者でない者の招集にかかるもので法律上理事会としての存在が認められず、したがつてその決議は無効である。また右後任者選任の理事会は、前記のとおり理事でない被告川島正次郎のほか、請求の趣旨第二項1ないし6または8記載の理事会によつて理事に選任された者が理事として決議に加わつたものであるところ、右第二項記載の各理事会の決議は第二の請求に関して後述するとおりいずれも無効であるから、右後任者選任の理事会は理事でない者が理事として決議に加わつたものであり、したがつて、その決議はこの点からも無効といわねばならない。そうだとすれば、原告らの後任理事は未だ適法に選任されたものとはいえないから、原告らは依然として理事の職務を行ないうるものである。

しかるに被告らはいずれも原告らの右理事たる地位を争うので、原告らは被告らとの間で原告らが右理事であることの確認を求める。

二、本案前の抗弁に対する答弁

理事たる地位が被告学校法人の委任または準委任による法律関係にあることは認めるが、被告らはいずれも原告の理事たる地位を争い、その地位が認められるならば、被告学校法人を除く被告らにも重大な利害関係を及ぼすことが明らかであるから、これら被告らに対しても理事たることの確認を求める利益があり、したがつてこれらの被告らを相手方とする本訴は適法である。

(第二の請求について)

一、請求原因

1、請求の趣旨第二項記載の各決議がなされたかのごとき外観が存するけれども、右各決議は次の理由によつて無効((一)は請求の趣旨第二項1ないし4の無効事由、(二)は同項1の無効事由、(三)(1) (2) は各同項5の無効事由、(三)(3) は右5の(一)ないし(三)の無効事由、(四)は同項6ないし10の無効事由、)である。すなわち、

(一)  同項1ないし4記載の理事会は開催されたことがない。

(二)  仮に同項1記載の理事会が開催されたとしても、理事に選任された亡肥後亨は当時既に私立学校法第三八条第五項に定める理事の欠格事由たる禁錮以上の刑に処せられていたから、このような理事としての適格性のない者を理事に選任した右決議は違法である。

(三)  同項5記載の決議について

(1)  理事会は前述のとおり理事長が招集すべきであり、しかもその方法は理事全員に対して理事会開催の通知がなされるべきであるのに、同項5記載の決議をなした理事会は未だ適法に理事および理事長に就任した者でない被告川島正次郎の招集にかかるものであり、招集権者の招集によらない理事会であつて、法律上理事会としての存在が認められない。しかも原告安藤儀三に対しては右理事会開催の通知がなされなかつたので、右理事会は招集手続を欠くかまたは招集手続上に瑕疵がある。

(2)  右理事会は、理事でない亡肥後亨、同被告川島正次郎、同豊田耕作およびおそくとも昭和三四年一〇月二九日理事を辞任し、当時既に理事ではなかつた訴外川崎守之助、同佐久間徹の以上五名が理事として出席し、ともに討議した結果決議をなしたものであるから、決議方法に瑕疵がある。

(3)  同項5の(一)ないし(三)記載の各決議は前記不存在の理由により無効な決議を追認するもので、新たな決議ではなく、しかも無効な決議はこれを追認しても有効となるものではない。

(四)同項6ないし10記載のような各決議がなされたが、その決議をなした理事会および評議員会はすべてその招集権者たる理事長でない被告川島正次郎の招集にかかるものであり、かつ無効な選任決議により選任された理事または評議員として資格を欠く者が理事または評議員として決議に関与したものである。

2 しかるに被告らはいずれも右決議が有効であると主張しているので、原告は理事としての職責上被告らとの間で右各決議の無効確認を求める。

二、本案前の抗弁に対する答弁

学校法人に関しては、商法第二五二条のような特殊の訴を認める規定がないことは認めるが、同条の立法趣旨からして広く決議体の決議について類推適用されるべきであつて、判例も学校法人の場合にも請求の現在化を行なわず、決議そのものの無効確認の訴を認めている。しかも、決議の無効確認の訴は右決議が有効に存在していたとすれば発生したであろうところの法律関係が発生しないままの状態にあることの確認を求めるものにほかならないから、本件無効確認の訴は適法である。

被告らは、本訴の原告適格を否定しているが、前述のとおり原告らはいずれも被告学校法人の理事の職務を行なうものであり、被告学校法人の適正な運営について全面的利害関係を有するから、原告らは本訴につき原告適格を有する。

また、被告学校法人を除く被告らはいずれも本訴につき被告適格を欠くと主張するが、これらの被告らは前述のとおり、現在被告学校法人の理事または監事としてその職務を行ない。原告らの主張する各決議の無効を争つており、しかも同被告らは原告ら主張の決議によつて選任された者であり、仮に右選任決議の無効が確定すれば、同被告らはその地位を退去せざるを得ない関係にあるので、これらの被告が本訴につき被告適格を有することは明らかである。

よつて、本訴が不適法であるとの被告らの主張はいずれも理由がない。

三、本案の抗弁に対する答弁

1、抗弁1記載の事実のうち、二七日の被告ら主張の懇談会に被告ら主張の二名が欠席し、その主張の一名が早退し、その余の被告ら主張の者らが出席し、懇談会を理事会に切り替えて被告ら主張の決議をなしたことは認めるが、訴外川崎大次郎および被告千谷利三が被告ら主張の委任をなしたとの点は不知、その余の事実はすべて否認する。仮に被告ら主張の各委任がなされたとしても、理事会は統一的意思に達するための論議の過程が重要であるから、理事は必ず自ら理事会に出席して議決権を行使すべきであつて、代理人による意思表示は許されない。仮に代理人による意思表示が許されるとしても、寄附行為第六条第五項但書の趣旨から代理権授与は書面によるべきであつて、口頭によるものは許されない。したがつて、右理事会は理事全員の同意により開催されたということはできない。それのみでなく、右理事会は前記五名の理事の資格のないものを理事として開催されたものであるから、仮に開催につき全員の同意があつたとしても、被告ら主張のように招集手続の瑕疵が治癒されたということはできない。

2、抗弁2記載のうち、商法第二四七条の訴は三か月以内に提起すべきこと、学校法人に関してそのような規定のないこと、原告青木運之助が二七日の理事会に出席してその決議に参加したこと、原告青木運之助が訴外日本ロール製造株式会社の代表取締役であること、原告安藤儀三が被告堀口貞雄に対して被告ら主張の礼状を差し出したことは認めるがその余の事実はこれを否認し、権利濫用の主張は争う。

(請求の趣旨第三項記載の請求-以下第三の請求という-について)

一、請求原因

請求趣旨第三項記載のとおりの各登記がなされているが、その原因たる各決議が第二の請求に関して述べたとおりの事由により無効であるから、右各登記も無効であり、また原告らの退任の登記は、第一の請求に関して述べたとおり、原告らが理事たる地位を有する以上、事実に符合せず誤つている。

よつて、原告らは被告学校法人の理事として同被告に対し右各登記の抹消登記手続を求める。

二、本案前の抗弁に対する答弁

学校法人と理事または監事との関係は、委任または準委任であつて、しかも右理事等の就任または辞任は学校法人に対しては原因たる事実の発生によつて直ちにその効力を生ずるが、理事等の役員と学校法人以外の善意の第三者に対する関係では就任または辞任の登記を必要とする。したがつて役員の地位に変動があつた場合には、学校法人は、その者に対して、委任契約上の義務としてその変動を登記して対第三者関係に右変動の効果を及ぼさせる義務がある。そして、原告らは被告学校法人の理事であるから、役員の地位の変動と異なる登記が存する以上、被告学校法人に対して事実と異なる登記の抹消を求める利益がある。

三、被告学校法人の抗弁に対する答弁

被告学校法人の主張する二名の被告がもと理事であつたことは認めるが、右二名の被告は遅くとも昭和三四年一一月一九日までに理事を辞任したから、被告学校法人の主張は理由がない。

被告ら訴訟代理人は、第一の請求の被告学校法人との間について請求棄却、その余の請求について訴却下、予備的に請求棄却、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求め、各請求原因について次のとおり述べた。

(第一の請求について)

一、被告学校法人以外の被告に対する第一の請求に関する本案前の抗弁

理事たる地位は被告学校法人との間の委任または準委任契約により生ずるものであつて、その法律関係は被告学校法人との間においてのみ生ずるものであり、理事たることにより法律上当然第三者との間に利害関係を生ずるものではない。そして被告学校法人を除く被告らは原告らとの間の右法律関係の当事者ではないから、これら被告を相手方とする原告らの理事確認の訴は被告適格を欠く違法なものといわねばならない。したがつて、右訴は却下されるべきである。

二、請求原因に対する答弁

原告ら主張の請求原因事実中、被告学校法人が私立学校法に基づく学校法人であつて、千葉工業大学を設置運営するものであり、その余の被告らが理事または監事としてその職務に従事している者であること、原告らがいずれも昭和三二年四月二四日理事に就任し、寄附行為第一〇条第一項により理事の任期が四年と定められているため昭和三六年四月二四日任期満了により退任すべきであつたこと、寄附行為第一〇条第三項には、役員はその任期満了後でも後任者が選任されるまではなおその職務を行なうと定められていること、昭和三六年六月一三日請求の趣旨第二項8記載の理事会の決議が、同年七月一〇日同項9記載の理事会の決議がなされ、後任理事が選任されたとしてその旨各登記がなされていること、寄附行為第六条第二項には、理事会は理事長が招集するものと定められていること、被告川島正次郎が請求の趣旨第二項5記載の理事会の決議により理事および理事長に選任されたとされていること、被告らがいずれも原告らの理事たる地位を争つていることは、これを認めるけれども、その他はすべて否認する。以上に記載の各理事会の決議がすべて有効であることは第二の請求に関し後に述べるとおりであり、したがつて、原告らは任期満了により退任し、理事の職務を行ないうる者ではない。

(第二の請求について)

一、本案前の抗弁

原告らが無効であると主張する理事会等の各決議は、被告学校法人の単なる内部的な意思決定にすぎず(例えば理事会の決議によつて理事に選任された者は理事会の決議のみで理事に就任するものではなく、さらに被告学校法人と理事に選任された者との間の任用契約の成立によつて初めて理事の地位に就任する者である。)、あるいは単なる事実の確認(例えば理事の辞任はその意思表示が学校法人に到達することによつてその効力が生ずるのであつて、さらに理事会の確認行為を必要とするものではない。)であつて、いずれも法律行為ではないから有効、無効の問題を生ずる余地がなく、しかも右決議によつて直接原告らに対する法律関係を生ずるものではないから、その無効確認を求めることは、商法第二五二条のような特別の規定があれば格別、そのような規定の適用のない本件にあつては、いわゆる即時確定の法律上の利益がなく、不適法な訴として却下されるべきである。

しかも原告らが無効であると主張する決議によつて選任された理事等の役員のうち、被告学校法人を除く被告ら以外の理事は既にその地位を退任または辞任してその旨登記がなされ、肥後亨および白鳥義三郎は既に死亡してその旨登記が完了しており、これらの者は現在理事でないのであるから、これらの理事の選任決議無効確認を求める訴はいわゆる過去の法律関係の確認を求める訴として許されない。そして、原告安藤儀三は請求の趣旨第二項1記載の請求と同一内容の訴を被告学校法人に対してなし、その訴については亡肥後亨が理事を辞任しその登記を了している以上訴の利益がないという理由で却下の判決がなされ、右判決は確定している。

仮に決議の無効確認の訴が許されるとしても、原告らはすでに任期満了によつて理事を退任したものであるから、原告らと個人的利害関係のない被告学校法人の決議の無効を主張する利益がなく、また被告学校法人以外の被告らは、個人として本訴の対象たる決議につき利害関係を有しないから被告適格を欠くものである。

二、請求原因に対する答弁

請求原因1冒頭記載の各決議がなされた外観の存すること、同(一)のうち、請求趣旨第二項2ないし4記載の理事会が開催されず、その決議が無効であること、同(三)の(1) のうち、寄附行為の規定により理事会は理事長が招集すべきものであること、招集の方法が理事全員に対して理事会開催の通知をなすべきこと、原告ら主張の決議がなされたこと、被告川島正次郎が右決議前理事および理事長でなかつたこと、同(三)の(2) のうち、原告ら主張の亡肥後亨、被告川島正次郎、同豊田耕作、訴外川崎守之助、同佐久間徹が原告ら主張の理事会に出席し、川崎守之助および佐久間徹が決議に参加したこと、被告川島正次郎、豊田耕作が右決議前理事でなかつたこと、同(四)のうち、原告ら主張の決議がなされたこと、その決議をなした理事会および評議員会が被告川島正次郎の招集にかかるものであり、原告ら主張の決議により選任された理事または評議員が決議に参加したこと、同2のうち、被告らが原告主張の各決議の無効を争つていること、はこれを認めるけれども、同(一)のうちの請求趣旨第二項1の点、同(二)の点および肥後亨が当時理事でなかつたとの点はいずれも不知、その余の事実はすべて否認する。すなわち、

原告らはまず昭和三四年一二月二七日の理事会は招集手続を欠くかまたはその手続に瑕疵があつたと主張するが、私立学校法には理事会の招集手続を規定した条項がなく、寄附行為には原告ら主張のとおり理事会は理事長が招集するとのみあつてその招集方法および要式について規定がないから、理事長またはその意を体した者が理事会開催の趣旨を各理事に通知すれば足り、その方法を問うものではないのであつて、昭和三四年一二月二七日の理事会の招集は次のようにしてなされたものであるから、何ら違法ではない。

被告学校法人においては、真実理事会が開催され決議がなされたものでないのに、昭和三四年一二月亡肥後亨によつて請求の趣旨第三項2ないし4記載の登記がなされ、当時右登記された被告川島正次郎を理事長に、同豊田耕作を理事に選任することについて理事を始め関係者間に異論はなかつたけれども、右違法な選任を是正し、従来存した関係者間の紛争の事後処理をするため、まず理事ら関係者の懇談会を開催することとし、被告豊田耕作、理事訴外古荘四郎彦、監事訴外長幡保良の三名の名で関係者に招集通知を発し、これにより原告安藤儀三を除く当時の理事長訴外川崎守之助以下理事全員らが昭和三四年一二月二五日東京都千代田区永田町東京グランドホテルに参集して懇談会を開催した。そして出席理事ら全員が協議した結果、被告川島正次郎の理事長就任後の人事につきほぼ意見の一致をみたが、原告青木運之助が代表権ある副理事長に就任することを希望し、この点について意見の一致をみるに至らなかつたので、翌々二七日に懇談会を続行することとし、同日必ず意見をまとめ、そのうえで懇談会を理事会に切り替え、前記案件について決議することとし、出席理事ら全員の承諾を得た。そこで右懇談会に欠席した原告安藤儀三に対しては右懇談会の一致した意見に従い理事長名義の電報で、当夜、二七日一二時グランドホテル七階において理事会を開催するから出席するように通知した。かくして二七日懇談会を理事会に切り替え原告ら主張のような決議をなしたものである。このように、議案について理事全員の意見が一致し、理事長訴外川崎守之助の出席した席上、同人またはその意を体した者が理事会の開催を申し合せ、欠席者に対しては理事会の開催を通知し、理事全員が理事会開催を知つた以上改めて招集手続をとる必要はなく、右理事会の招集は適法なものといわねばならない。

また原告らは、右一二月二七日の理事会は理事でない者が手続に関与して決議に加わつたと主張するが、前理事長訴外川崎守之助および前理事訴外佐久間徹が当時辞意を表明していたことは事実であるが、その辞任は後任理事の就任を条件としていたものであつて、右理事会の決議がなされるまでは、未だ辞任の効力が生じていないのであるから、右両名が決議に参加することは違法ではない。被告川島正次郎、同豊田耕作および亡肥後亨の三名が、前述のとおり懇談会を理事会に切り替えたため、その席に同席したことは事実であるが、同人らは理事として発言または議決権を行使したことはなく、決議に影響を与えたこともない。仮に原告ら主張のように招集手続上の瑕疵があるとしても、それは招集手続が法令または寄附行為に違反し、もしくは公正でないということに帰着するものと考えられるが、このような手続上の瑕疵によつて決議そのものの効力が当然否定されるものではない。このことは商法第二四七条に手続上の瑕疵ある場合、決議の取消を認めているにすぎず、同法第二五二条の定める決議の無効事由に当らないことに照しても明らかである。

なお、原告らは請求の趣旨第二項5の(一)ないし(三)記載の決議が無効な決議を追認したものであると主張するが、右決議は理事および理事長を新たに選任および互選したものと解すべきであつて、この点に関する原告らの主張は失当である。

以上の次第で昭和三四年一二月二七日の理事会の決議は有効であるから、右決議の無効なことを前提としその後の決議が無効であるとする原告らの主張も理由がない。

三、抗弁

1、仮に原告ら主張のとおり右二七日の理事会の招集手続に瑕疵があつたとしても、右理事会の開催については理事全員の同意があつたから、右瑕疵は治癒されたものといわねばならない。すなわち、

二七日の懇談会には当時の理事訴外川崎大次郎および同原告安藤儀三の両名が欠席し、同被告千谷利三は理事会開催前所用で早退したが、その余の理事全員が出席し、右川崎大次郎は当時の理事訴外古荘四郎彦を、右千谷利三は当時の理事訴外佐藤正典をそれぞれ代理人に選任し、右代理人に対し、懇談会を理事会に切り替えることに同意し、理事会において議決権を行使することをそれぞれ書面により委任し、原告安藤儀三は理事会開催前原告青木運之助から電話で懇談会の模様を知らされ、同人に対し、代理人として、理事会開催に同意し、理事会において議決権を行使するよう口頭委任した。そして、これら委任による出席者を含めて理事全員が右理事会開催について同意したものであるから、もはや改めて招集手続をなす必要はない。したがつて、右理事会は適法に開催されたものといわねばならない。

2、さらに仮にそうでないとしても、原告らが右決議の無効を主張することは権利の濫用に該当して許されないものと考える。すなわち、

原告ら主張の瑕疵の事由は前述のとおり商法第二四七条所定の事由を出るものではなく、しかも、同条によつて裁判上救済を求めうるのは決議の日から三か月以内に訴を提起した場合に限るのであつて、勿論学校法人についてはこのような規定はないけれども、比較的軽微な手続上の瑕疵の主張を制限しようとする同条の趣旨は学校法人の決議の手続上の瑕疵についても考慮されるべきである。しかるところ、原告青木運之助は右二七日の理事会に自ら出席して決議に参加し、その後任期間満了に至るまで時折り理事会に出席するも殆んど発言せず、原告安藤儀三は右二七日の理事会の直後その内容を原告青木運之助から知らされてこれを了承し、その後の理事会には出席もせず、両名とも正規の理事として進んで被告学校法人の運営をなさず、同被告を除く被告らの経営の是正抗争の試みもしない。そして右決議後長期間が経過した後に提起された訴において始めて右決議の無効を主張するにすぎない。その間原告らは昭和三五年三月二〇日付理事長被告川島正次郎名義の理事会に代る持回り賛否伺い文書に賛意を表し、原告青木運之助は昭和三六年一一月一日自己が代表取締役をしている訴外日本ロール製造株式会社の代表者として、被告川島正次郎を被告学校法人の代表者理事長として同被告との間に物品供給契約を締結し、原告安藤儀三は昭和三八年四月二日被告川島正次郎が招集した理事会において選任された学長兼理事被告堀口貞雄に対し知人の入学依頼の礼状を差し出し、もつて暗黙に二七日の理事会の有効なことを認めていた。しかも被告学校法人は、右二七日の決議以後、被告川島正次郎らの役員のもとに格段の発展をなしているものであつて、今、原告らの決議無効の主張を許すならば、被告学校法人は収拾のつかない混乱に陥るものと思われ、その及ぼす影響は計り知れないものがある。

以上の次第であるから、原告らの決議無効の主張は権利の濫用として許されない。

(第三の請求について)

一、本案前の抗弁

仮に原告ら主張のとおり理事らの役員の就任登記が無効であるとしても、請求の趣旨第三項1記載の登記は昭和三五年一〇月一四日、同2、3各記載の登記、同4のうち被告川島正次郎の理事長就任の登記、同5ないし7記載の各登記はいずれも昭和三六年六月二九日抹消登記済みであるから、右各登記の抹消登記手続を求める利益はない。また現に抹消されていない理事らの就任登記についても、もし原告らがその主張のとおり理事の職務を行ないうる者であり、右登記された役員が法律上正当な地位にないとすれば、原告らは被告学校法人における職務の執行として、別途抹消登記手続をなしうるのであるから、抹消登記手続を命ずる判決を求める利益がない。

よつて、原告らの被告学校法人に対する右各登記抹消登記手続を求める訴は不適法として却下されるべきである。

二、請求原因に対する答弁

原告ら主張の登記がなされていることは認めるが、原告らが理事の地位にあるとの点および原告らの退任の登記が事実に符合せず誤つているとの点は否認する。原告ら主張の各決議についての認否は第二の請求原因に対する答弁と同一である。請求の趣旨第三項2以下の登記が無効との点は争う。

三、抗弁

請求の趣旨第三項2ないし4記載の登記の原因たる各決議が無効なことは前述のとおりであるが、右各登記の内容たる各理事は同二項5記載の決議によつて適法に選任され、また、同第三項8記載の原告らの退任の登記は原告らが仮にその主張のとおり現に理事の地位にあるとしても、前述のとおり任期満了したものであることに変りはないから、右各登記は事実に符合し有効であつて、抹消登記手続をなすべき理由はない。さらに仮に第二の請求に関する原告らの主張がすべて理由があるとしても、被告千谷利三、同平田梅治は昭和三四年一二月二七日前理事であつたので、原告らが第一の請求に関して述べたと同様の理由により右両被告は現在理事たる地位にあるから、同被告らの前記理事就任登記の抹消登記手続をなすべき理由はない。

証拠〈省略〉

理由

一、まず原告らと被告学校法人との間の理事確認の請求以外の各請求の適法性について考察する。

1、原告らと被告学校法人以外の被告らとの間の理事確認の請求について

確認の訴は、原告の権利または法律的地位に現存する不安危険を除去するために反対の利害関係を有する者を被告とし判決により一定の権利関係の存否を確認することが心要かつ適切である場合に限つて認められる。そして、学校法人における理事たる地位は学校法人と理事個人との間における契約関係に基づいて発生する一定の法律上の地位であるから、その地位の存否について紛争が生じた場合には、理事たることを主張する者から右契約関係の当事者たる学校法人を相手方として、これとの間においてのみその地位の確認を求めれば足り、それ以外の第三者たる理事その他の者を共同被告としてこれらの者との間においてまで理事たることの確認を求める法律上の利益はないものと解すべきである。したがつて、原告らの被告学校法人以外の被告らを相手方とする理事確認請求の訴はすでにこの点において不適法であり、却下されるべきである。

2、原告らと被告らとの間の各決議無効確認の請求について

確認の訴は、前述により明らかなとおり、原則として現在の権利または法律関係に関してのみ許されるのであつて、特別の規定のない限り単なる事実の確認または過去の法律関係の存否の確認はこれを求める利益がないものとして許されない。そして、学校法人の理事会または評議員会の決議は、他の決議体の決議同様、仮にそれによつて法律効果が生ずる場合でも、法律効果発生の要件事実たるにすぎない。しかも、私立学校法には、商法第二五二条のような決議の無効確認の訴を認める規定を設けていないから、仮に被告学校法人の理事会等の決議が無効であるとしても、その決議に基づいて発生した現在の具体的権利または法律関係の存否の確認を求めるは格別、抽象的、総括的にしかも過去の決議にまで遡つてその無効確認を求めることはこれを求める利益がないものとして許されないものと解する。そうだとすれば、被告学校法人における過去の一連の理事会または評議員会の決議そのものの無効確認を求める本訴はその余の点について判断するまでもなく不適法として却下されるべきである。

もつとも、原告らは、本訴請求をもつて、無効な決議が有効に存在したとすれば発生したであろうところの法律関係が発生しない状態にあることの確認を求めるものであるとの主張をもしているけれども、仮に本訴の趣旨がそのようなものであるとしても、学校法人の理事会等の決議によつて直ちに一定の法律効果が生ずるものではなく、他の事実と相まつて始めて一定の法律効果が生ずるにすぎないから、決議が有効に存在したとすれば発生したであろうところの法律関係が発生しない状態といつても、それは依然事実状態にすぎないのであつて、このような事実の確認を求めることができないことは前述のとおりである。原告ら主張の趣旨が、決議を前提事実として発生する特定の法律関係の存否の確認を求めたいというのならば、直截かつ具体的にその法律関係の存否確認を求めるべきであり、本件における原告らの主張からは右のような法律関係を明らかにすることはできない。

3、原告らの被告学校法人に対する登記抹消登記手続請求について

原告らは、本訴において、原告らの理事の退任登記および他の役員の就任または退任等の登記の抹消登記手続を求める。

そこでまず右登記抹消請求の訴の利益について判断する。

成立に争いのない甲第一号証によると、請求の趣旨第三項1記載の就任の登記は、昭和三五年一〇月一四日の肥後亨が同月一二日理事を辞任した旨の登記手続により抹消され、請求の趣旨第三項2、3各記載の就任の登記、同4のうち被告川島正次郎の理事長就任の登記、同5ないし7記載の各就任の登記はいずれも昭和三六年六月二九日の、被告川島正次郎が理事兼理事長を、被告豊田耕作、同宇佐美敬一郎、訴外藤井一郎、同武居文助、被告北原広男、訴外小川為幸、被告平田梅治が同年四月二四日理事を退任し、被告松本栄一、同南義弘が同年六月一二日監事を辞任した旨の登記手続により抹消されていることを認めることができる。それならば、既に抹消され現にその効力を有しない右各就任の登記の抹消登記手続を求める訴はその利益がないものというべきである。

なお、被告らは、現に抹消されていない理事らの就任登記についても、もし原告らがその主張のとおり理事の職務を行ないうる者であり、右登記された役員が法律上正当な地位にないとすれば、原告らは被告学校法人における職務の執行として、別途抹消登記手続をなしうるのであるから、抹消登記手続を求める利益がないと主張するけれども、後に述べるとおり原告らは被告学校法人の理事の職務を行ないうる者ではあるけれども、成立に争いのない甲第二号証によると、被告学校法人においては、寄附行為第五条第二、三項により理事の互選による理事長のみが代表権限を有する旨定めているので、理事長でない理事の職務を行なう原告らは、その職務の執行として被告ら主張のような抹消登記手続をなすことはできないものであるから、被告らの前記主張は採用することができない。

したがつて、原告らの本訴抹消登記手続請求中、前記の抹消登記手続を求める訴は不適法として却下されるべきである。

二、原告らと被告学校法人との間の理事確認の請求について

1、被告学校法人が私立学校法に基づく学校法人であつて千葉工業大学を設置運営するものであること、原告らが昭和三二年四月二四日理事に就任し、その任期が四年であるため、同三六年四月二四日右任期満了により理事を退任すべきこと、しかしながら、寄附行為第一〇条第三項には、役員はその任期満了後でも後任者が選任されるまではなおその職務を行なうと定められていること、しかるに、被告学校法人においては昭和三六年六月一三日および同年七月一〇日開催の各理事会によつて原告らの後任理事の選任決議がなされたこと、寄附行為第六条第二項により理事会の招集権者が理事長と定められていること、右後任者選任決議をなした理事会はいずれも被告川島正次郎の招集にかかるものであること、同被告が請求の趣旨第二項5記載の理事会の決議により理事および理事長に選任されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、理事会の招集権者は理事長であつて、理事長でない者は招集権限がないものであるから、招集権者でない者の招集にかかる理事会は法律上不存在であつて、その決議は無効といわねばならない。したがつて、もし被告川島正次郎の理事および理事長選任の決議が無効であれば、理事会の招集権者たる理事長の資格を欠き、同被告が招集した理事会による後任理事の選任決議は無効であり、原告らは寄附行為第一〇条第三項により理事たる職務を行ないうるものといわねばならない。

2、そこで、次に被告川島正次郎を理事および理事長に選任した請求の趣旨第二項5記載の理事会の決議の有効性について判断する。

(一)  まず、右昭和三四年一二月二七日の理事会決議前の理事について考えるのに、請求趣旨第二項2ないし4記載の各理事会が開催されずその決議が無効であり、当時被告川島正次郎が理事および理事長に、被告豊田耕作が理事に選任されていなかつたことは当家者間に争いがなく、原本の存在および成立につき争いのない甲第三号証の一によれば、請求趣旨第二項1の理事会が開催されずその決議が無効であることを認めることができ、他にその選任を認むべき証拠がないので、肥後亨が当時理事でなかつたことは明らかであり、成立に争いのない甲第一号証、第七号証の三、第八号証の一、第一八号証の一、二、乙第二号証の二、第三号証の一、第二〇号証を総合すると、理事長川崎守之助、理事佐久間徹は当時既にその職を辞し、結局古荘四郎彦、川崎大次郎、武居文助、佐藤正典および原告青木運之助、同安藤儀三、被告千谷利三、同平田梅治が当時の理事に就任していたことを認めることができ、原本の存在および成立につき争いのない甲第二四号証中右認定に反する部分は信用し難く、他に同認定を左右すべき適当な証拠はない。

(二)  そして、右各事実に、成立に争いのない甲第七号証の一、第九号証の一、乙第二号証の二、第三号証の一ならびに原本の存在および成立につき争いのない乙第二四号証を総合すると、昭和三四年一二月二七日の前記理事会は当時理事長でなかつた被告川島正次郎が理事長としてこれを招集したものであつて、しかも、右理事会は、前記理事八名中原告安藤儀三を除く七名(二名代理)のほか理事でない被告川島正次郎、同豊田耕作、訴外川崎守之助、同佐久間徹がその決議に加わつた(右川崎守之助、佐久間徹が右決議に加わつたことは当事者間に争いがない。)ものであることを認めることができ、右認定を覆すべき適当な証拠はない。被告らは、右理事会は理事長川崎守之助またはその意を体した者が理事会開催の趣旨を各理事に通知したので招集手続の欠缺または招集手続上の瑕疵はないと主張するけれども、川崎守之助が当時理事長でなかつたことは前認定のとおりであるから、右主張はこれを採用することができない。

(三)  なお、被告らは各理事が理事会開催に同意したので招集手続上の瑕疵は治癒されたと抗争するけれども、仮に各理事が右の同意をなしたとしても、前認定の事実によれば、その同意は理事でない被告川島正次郎、同豊田耕作、訴外川崎守之助、同佐久間徹をも理事とする理事会の開催についてのものと解すべきであるから、未だこれをもつて被告ら主張のように招集手続上の瑕疵が治癒されたと認めることはできない。

(四)  次に原告らの右決議無効の主張が権利の濫用に該当するとの被告らの主張について判断するに、前記認定の無効事由が商法第二四七条所定の場合と同性質でないことは明らかであり、その他の被告ら主張事実をもつてしては、(ただし、原告安藤儀三が一二月二七日の理事会の直後その内容を原告青木運之助から知らされてこれを了承したとの点はこれを認めるに足る証拠がないので、右事実はこれを除く。)未だ原告らの決議無効の主張が権利の濫用に当るものとは考えられず、他に右主張が権利の濫用となると認めるに足りる事実の主張立証はない。

3、そうだとすれば、その余の判断をなすまでもなく、被告川島正次郎を理事および理事長に選任した昭和三四年一二月二七日の理事会の決議は無効であり、同被告は理事会招集権者たる理事長でないことになるから、原告らの後任理事を選任した理事会は法律上不存在であり、その決議は無効であり、したがつて原告らの後任理事の選任がないことに帰するから、寄附行為第一〇条第三項により、原告らは理事の職務を行ないうるものといわねばならない。原告らは理事であることの確認を求めるものであるが、これを理事の職務を行ないうるものであることの確認を求める趣旨と解し、この点に関する原告らの請求は正当というべきである。

三、原告らの被告学校法人に対する前記一3以外の登記の抹消登記手続請求について

私立学校法第二八条第一項、組合等登記令第一条、第二条第四号、第六条によれば、学校法人の代表者の氏名、住所、資格およびその変更は登記事項とされ、しかも同法第六六条第一号によれば、学校法人の役員が登記事項を怠りまたは不実の登記をしたときは過料に処せられる旨規定されているのであるから、学校法人の役員は右登記事項について登記申請手続をなすべき義務を負うことが明らかである。しかしながら、学校法人に関する登記手続を規定した組合等登記令およびこれにより準用される商業登記法には不動産登記法におけるがごとき登記権利者およびこれに対応する登記義務者なるものが認められず、かつ判決による登記手続の規定が設けられていないこと等を合わせ考えるならば、前記役員の登記義務は公法上の義務であると解せられる。そこで、組合等登記令による学校法人の登記が不実であつた場合、理事の一人が直接学校法人に対し右不実登記の変更、是正を訴求しうるか否かについて考えると、もし右登記が訴求する者を対象にしているときは、学校法人は変更登記をなすべき公法上の義務を負うとともに、右訴求者に対しても、私法上変更登記義務を負うものと解しうる余地はあるけれども、右登記が訴求する者を対象にしていないときは、たやすく私法上の変更登記義務を負うものということはできない。すなわち、学校法人の理事は他の理事等の不実登記の存在により自己の理事としての権利の行使につき事実上の不利益を蒙ることは否定し難く、したがつて、他人に関する登記であつても、これが不実のときはその是正につき利益を有し必要を感ずる場合があることはこれを肯定しなければならないけれども、他方、このような利益や必要性のあることを理由に、直ちにその者から登記の対象者をさしおいて直接学校法人に対し登記の変更を訴求することを許すと、右登記は最大の利害関係人たる右登記対象者のなんらの関与なしに変更されることになり、しかも、弁論主義の関係上、その変更登記は必ずしも実体的真実に合致するとは限らないところから、容易に虚偽の登記による虚偽の公示がなされる事態を招き易く登記対象者および第三者の利益を不当に害する結果を生ずる虞がある。

本件において、原告らが抹消登記を求めているうち、前記訴の利益のないもの以外では、請求趣旨第三項8記載の原告らの退任の登記を除くその余の登記は、いずれも原告らがその登記対象者にはなつていないものであるから、直接被告学校法人に対しその抹消登記請求を求めることは許されないと解すべきである。

そしてさらに、右原告らの退任の登記について考えるのに、この場合原告らは前記の登記対象者にはなつているけれども、原告らは前認定のとおり既に理事の任期が満了したものであつて、ただ後任が選任されないため理事の職務を行ないうるものにすぎない。そうだとすれば、理事退任の登記は正に事実に符合しているものであるから、その抹消登記を求めることはできないものと解する。

よつて、原告らのこの点に関する請求は失当である。

四、以上の次第で、本訴請求中、原告らが被告学校法人に対する理事の職務を行ないうるものであることの確認を求める部分は理由があるからこれを認容し、右および前記三を除く訴はすべて不適法としてこれを却下し、右三の請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀部勇二 渡辺昭 若林昌俊)

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